は先ほどファラミアと別れのキスをし、束の間の再会を終えてきたばかりだった。

「フロドの行方はわしにも見えぬ。」

白と黒の大理石で統一された、玉座の間ではガンダルフが難しい顔で旅の仲間達に告げた。

「闇が深くなっておるのだ。」

「指輪はまだ奴の手中に渡ってはおりませんな?」

「時間の問題じゃな。」


アラゴルンの問いかけにガンダルフは言った。

「奴は手痛い打撃を被ったが、モルドールの壁の背後で勢力を立て直している。」

「全てをモルドールで終わらせようぜ!」

血気盛んなギムリが叫んだ。

彼は執政の座る黒いくるみ材の椅子にどっかと腰掛けていた。

「だが・・フロドと滅びの山の間には一万のオークがいる。わしが彼を死に追いやったのじゃ。」

ガンダルフは自責の念に駆られて呟いた。

「いいえ・・まだ望みはあります。」

その言葉にアラゴルンは静かに言った。

「彼にゴルゴロス平原を渡る時間があればー対策はあります。」

「サウロンの軍をおびきだし、彼の国をがらあきにするのです。」

「そのために、我が軍が黒門に赴きましょう。」



「兵力で勝つみこみはない」

戦の経験豊かなエオメルがずいと進み出て反論した。

「目的は勝利ではない。サウロンの目をフロドから反らすための策だ。」

アラゴルンはやんわりと言い返した。

「フロドの動きに奴は盲目になるだろう。」

彼はレゴラス、、ギムリ、そして、王女に影のごとく付き添う山賊の女達を順々に見据えて言った。


「陽動作戦か。」

レゴラスはにやりとした。

「いい考えだわ。」

も賛成した。

「やろうぜ!」

ギムリもこれにならった。

「サウロンはそんな単純な奴でない。かならずしや罠に気づくだろう。」

ガンダルフの顔が曇った。

「いえ・・必ず乗ってきますよ。」

アラゴルンは自信たっぷりに言い放った。





その夜、薄暗い六枝燭台の明りが灯る玉座の間で、アラゴルンは一人いた。

目の前にはガンダルフが置いていったオレンジ色のパランティア。

彼は肩膝をつき、決然とした顔つきで球を拾い上げた。


途端に球は赤い炎の渦に包まれ、球の意識は一気にサウロンと繋がった。


「お前はこれまで執拗に私を追ってきた。」

「それももはや終わりだ。」

彼は怒りで激しく燃え盛る球をまばたきもせずに見つめて言った。

「これはエレンディルの剣だ。どういうことだか分かるな?」

アラゴルンは鼻腔を膨らませ、球の目の前に伝説の剣を突き出した。

サウロンは怒りの雄叫びを上げ、彼を凄い形相で睨みつけた。

しかし、次の瞬間、彼はにやりと笑うと信じがたい光景を映し出してきた。



それは異国の荒野で胸に黒い矢を受け、倒れているの姿だった。


「彼女はー二十四歳の誕生日に死ぬ!」

サウロンは高らかに宣言した。


「嘘だ!」

アラゴルンは驚愕と恐怖のあまり、球を思い切り床に叩きつけた。

「それは嘘だ!」

あの娘が私の前からいなくなる?馬鹿な・・だんじてありえないことだ!

彼はショックで顔が引きつっていた。


だが・・もし本当ならば!



その頃、黒いベールを頭からすっぽりと被り、城を抜け出して離れにある執政家の霊廟に向かう彼女の姿があった。

このベールは彼女が宿泊しているフィンドウィラス(デネソールの奥方、故人である)の部屋の衣装箪笥から

拝借したものだった。



灰色の建物は換気が行き届いていたが、薄暗くて嫌な感じがした。

燭台を高く掲げ、彼女は辺りに目をこらした。


吹き抜けの通路を真っ直ぐに進むと、すぐに探し物は見つかった。


戦友とその父の棺だ。


ファラミアが重い口を開いて教えてくれたのだが、デネソールは焼身自殺を図り、城から

そのまま飛び降りたため、遺体は回収できなかったとの事だった。


「おじ様、どうして先に行ってしまわれたのですか?」

はからっぽの鉛の棺に向かって涙ながらに問いかけた。

「もう一度、お会いしたかったのに・・。」

「じゃじゃ馬娘が今、帰りましたよ・・。」

彼女の目からわっと涙があふれ出た。

しばらく泣けるだけ、涙を流してしまうと彼女は額の前で十字を切り、祈りの言葉を唱えた。




その時、持っていた燭台の火がフッと消えた。

「誰かいるの?」

は真っ青になって、辺りを狂ったように見回した。

次の瞬間、後ろを振り返った彼女は腰をぬかしてその場にくずおれた。


「ボ・・ボヘミア?」

「驚かしてすまなかった。だが、俺の名を間違えないでくれ。」


「静かに・・落ち着いてくれ。騒ぐとすぐに兵士達がかけつけてくる。」

彼は彼女が恐怖で叫びだすのではないかと心配し、安心させるように手を伸ばして彼女の二つの手を

上から握り締めた。




「本当にあなたなのね・・。」

最初の恐怖が薄らいでしまうと、彼女はぱあっと顔を輝かせて聞いた。

「ああ・・また会えたな。」

彼は嬉しそうに微笑んだ。

「顔をよく見せて。」

は床に落ちた燭台を拾い上げ、彼の顔にゆっくりと近づけた。

ほのかな蝋燭の光に映し出されたのは、懐かしい金髪をなびかせ、茶色の絹服に腰に黄色のサッシュを巻いた

背の高い男性だった。


「あれが王になるまでおちおち昇天できなくてな。」

彼とともに霊廟を後にし、城の中庭を二人は歩いていた。

「それとあんたが無事に王妃冠を抱くまで、見届けたくて・・この世にこうして霊魂だけが

 戻ってきてしまった。」


彼はどこか寂しそうに言った。


「そうだったの・・でも、嬉しいな。こうやって・・昔のようにまた話が出来るなんて。」

は彼の肩に頭をもたせかけながら呟いた。

「俺がこのように自由に動けるのは夜の間だけだ。朝になるまでに棺に帰らねばならない。

 そう、あの世の使者と約束したんだ。」

二人は複雑な気持ちにかられ、しばらく見つめあった。


「あの世ってどんなところかしら?」

ふと素朴な疑問がわいてきたはきいてみた。

「苦しみも悲しみもないところだ。野原には花が咲き乱れ、川の水は澄みきってる。エルフ達は歌い、

 上手い山海の珍味が毎日、食べられる。だが、あんたはそこにいない。」

彼は彼女の頬に触れてさみしそうに笑った。

「ボロミア・・」

彼女は胸が詰まって、言いたい事が沢山あるのに言えなくなってしまった。

「少しだけ・・こうしていてもいいか?」

彼は次の瞬間、大きな手を伸ばして彼女の体を抱きしめた。

「神よ・・もう少しだけ」

と呟きながら。




どうやら私はボロさんに未練があるようです。うむ、しかしいいかげんな話ですなぁ・・ボヘミアは私の愛嬌です。
デネソールの奥方の名前、合ってるのでしょうか?








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